- 2011-01-10 Mon 15:22:21
- イベント
昨年の暮、嬉しいニュースが、ひとつ舞い込んで来た。
「フィナール国際美術展」で大賞を受賞した塩沢重丸さんの写真作品が、
パリのサロン・ド・メ組織委員会で、2011年の招待作家として選ばれたのだ。
★
残念ながら今回、「書」の分野からの招待作家は出なかった。
そのことは今後の課題にするとしても、塩沢さんの快挙は素直に喜びたいと思う。
日本の作家が国内の権威とは無縁に、作品の力だけで世界の舞台に紹介されること。
それが、この展覧会の第一の意義だったのだから。
もしも、一人も招待作家が出なかったなら……。
作品本位ということは、逆に言えば、そういう場合だってありえるのだ。
その時には、次回が辛い船出になるなぁ……と、内心、不安も抱えていたのだった。

塩沢さんの写真作品は、「雲湧き上がる」(58 cm×68cm)。
東京で「大賞」の選考にあたったキャロリーヌは「所感」に次のように書いている。
「塩沢重丸さんの素晴しい写真は、完璧に大賞に値する。彼の作品は、私を感動させた。
再現できない奇蹟に対する彼の目は驚くべきものだ。彼が捉えた、夢─雲─女性は、
私にとって心を彼方に運び、気分を爽やかにしてくれるものとして残るだろう」
この写真は、コンピューターによる合成や加工ではなく、
まさに「一瞬」を、写し撮ったものだという。

塩沢重丸さんは、1921年生まれ。
誕生日が12月10日ということなので、展覧会開催中は、88歳だったことになる。
彼の作品は、2008年NHKふれあいホールギャラリーや、
その後の、銀座での個展の時にも拝見していたのだが、
コンセプトや技法についての研究もきちんとなされ、知的な構成能力も持っていらっしゃる。

今回出品された、もうひとつの入選作品「Adagio」には、その知的な面が出ていると思う。
けれども、大賞受賞作「雲湧き上がる」には、それらの知性を超えた「何か」がある。
キャロリーヌがこの作品を「大賞」に選んだことには、なるほどと頷けるものがあった。
「生」と「エロス」が、実に爽やかに、率直に、肯定的に捉えられている。
「おれたちは年寄りらしく見せかけているだけだよ」と、
うそぶいていたという、ピカソのことなども、チラリと頭を掠めた。
★
東京で生まれた塩沢さんは、3歳から神戸に移り住み、船会社、貿易商に従事。
閉鎖的ではない、自由で新鮮な感覚、珍しいものに対する好奇心などは、
港の町、神戸で培われたものかも知れない。
しかも写真は12歳頃から。何ともモダンボーイだったに違いない。
戦争中、戦後は中断。本格的に始めたのは、定年後だという。
お話をなさる時なども実にダンディーで、気品が感じられる方である。
そして、お洒落。
今回の会場へのいでたちも、紺の縦縞で丈の長いジャケットを着用。
それが、嫌味にならずに、見事にフィットしていらっしゃった。

大賞が決まった時にも、どこか淡々としていて、飄々とした表情。
彼のその、良くお似合いのジャケットを着た後ろ姿を見ながら、
やはり作品は「人」が創るものなのだなぁ、と、あらためて感じた一瞬だった。
★
第63回 サロン・ド・メ (Salon de Mai) は、2011年5月16日(月)~22日(日)、
パリ3区のエスパース・コミーヌ (Espace Commines)で開催されることになっている。
- 関連記事
-
- Serge Kantorowicz 氏 寸描 (2012/02/04)
- 第31回 フィナール国際美術展 (2012/01/31)
- 88歳のダンディズム ( 塩沢重丸 ) (2011/01/10)
- 「うまいね」から「いいね」の世界へ (2010/09/02)
スポンサーサイト
- Newer: 「選ぶ」ということ。
- Older: クリスマス前夜に、阿部薫を聴く。
Comments: 2
- はなさかすーさん URL 2011-01-14 Fri 10:29:11
はじめまして。
拙いブログに来て頂きまして、ありがとうございます。
Editrial Airplaneさんの、クオリティの高い記事を楽しく
拝読いたしました。僕のブログのリンク先トップにある
ELLGEさんはフランス人写真家でルーマニアに住んで
います。個人的に好きな人です。
よろしかったら、リンクしたいのですが如何でしょうか?
どうぞ、よろしくお願い致します^^- 和泉 URL 2011-01-15 Sat 01:15:04
はなさかすーさん
コメント、ありがとうございます。
なかなか思うように扱えず、少しずつですが、
お読み下さり、ありがとうございます。
ELLGE さんの web site も、拝見させて戴きました。
リンクの件、諒解致しました。
よろしくお願い致します。
Trackback+Pingback: 0
- TrackBack URL for this entry
- http://noboruizumi.blog103.fc2.com/tb.php/5-c8f95ee0
- Listed below are links to weblogs that reference
- 88歳のダンディズム ( 塩沢重丸 ) from Editorial Airplane