- 2011-10-01 Sat 11:45:00
- 渡辺啓助、渡辺温、渡辺済
ひとつ前の日記で、
『アンドロギュノスの裔 渡辺温 オマージュ展』 について書いた。
今度は、その展覧会の記念「小冊子」について、書いて置こうと思う。
■
この冊子、大・中・小を組み合わせ、重ねたものを縦にすると、
渡辺温さんの「ONG」が浮かび上がるようになっている。


因みに、その一冊ずつにも、文字が入っている。



私が書かせて戴いた文章は、小の「G」に掲載されているのだが、
裏には「ALIMATIO」の文字が。
GALIMATIO は、エスペラント語で「意味不明なたわごと」らしい(笑)。
あと二冊の文字については、それぞれに楽しみながら調べてみて下さい。
ここには、制作の渡辺東さんと、中山豊さんのエスプリが、ぎっしり詰まっている。
こんな冊子に書かせて戴いたことを、本当に有難く思う。
せっかくなので、私の「意味不明なたわごと」を、ここに記録して置くことに。
軽い気持ちで引き受けたことを、少しばかり申し訳なく思っている。
■
やさしい窓に薔薇色の灯がついた。
『可哀相な姉』は、演出家、プロデューサー、そして作家でもあった久世光彦さんが、
新聞のエッセイなどで、繰り返し愛でていた、渡辺温さんの作品の題名だ。
この「可哀相」という言葉。
「可哀相なあたしの煙突!」
今回読み返し、改めて好きになった『赤い煙突』の中にも出て来る。
この言葉を、何度も自分の原稿に刻み込まずにはいられなかった温さんの、
物書きとして、人間としての、心の「揺れ」。
温さんの作品には、いつも、この「揺れ」が描かれているように思う。
何かを「可哀相」と感じる、こまやかで人間的な、温かみのある「心」。
またその「心」自体を、突き放して見据える作家としての、冷徹な「眼」。
ふたつの相容れぬものの間で揺れる、温さんの心の「振り子」。
一歩間違えると、偽善や臭みにさえなりかねない言葉。
そんなことはとっくに分かっていて、あえて俎上に載せて見せる作家としての温さん。
この「振り子」の揺れが、温さんの作品の魅力なのではないだろうか。
「可哀相」そのままではなく、その反動で、徹底的に否定し、また戻って来る「可哀相」。
大人の「眼」を持つ久世さんが魅かれた温さんの世界も、そんなところにあったのでは。
★
温さんが生まれて、もう100年ほどの時間が経っている。
その頃も今も、人間は、大して変わっていないように思う。
★
やさしい窓に薔薇色の灯がついた。
『アンドロギュノスの裔』の中で、そんな一行を、温さんは、書いた。
若くして逝ってしまった早熟の温さんと、
大人でありながら、いつも、そこから踏み出ようとした久世さん。
どちらにも、よく似合う一行だな、と思う。

■
今回は、渡辺温さんについて書かせて戴いたが、
三兄弟の啓助さん、濟さんに関連して書いたものも、以下にリンクさせて置く。
ご興味のある方は、読んでみて下さいませ。
・W.W.W.展(渡辺濟)
■
時は、垂直に存在し「今」を貫いている。
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Comments: 2
- はなさかすーさん URL 2011-10-02 Sun 21:35:56
拝啓。
少しずつ和泉さんの世界が見えて来ました。
武満徹さんとは、ゴールデン街のラ・ジュテというお店でお会いしたことがあります。
プールの中で蛍光灯を叩いて作られた音楽を聴かせてくれました。他界される時、
マタイ受難曲のなかの好きな歌を聴かれたことを知って、武満氏の愛した世界を
想像しました。音楽の導きと、その距離の深さを。
渡辺温さんの存在は知りませんでした。やさしい窓・・・薔薇色の灯・・・・そんな
表現者の使命は多彩こそ幸せです。
敬具- 和泉 昇 URL 2011-10-05 Wed 04:53:36
いくつかの日記をお読み下さったのですね。
私が武満徹さんと映画館でばったりお会いした時の映画は、
スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』。
『ラ・ジュテ』というゴールデン街のお店の名前も、
クリス・マルケル監督の宇宙物映画のタイトル。
武満さんの作品と、彼が考えていた映画、宇宙についてなど、
また、とりとめもなく、思いを廻らせておりました。
「宇宙」を思うことの中には、どこか畏れがありますね。
翻って、渡辺温さんの世界は「人間」の世界。
「宇宙」を感ずれば感ずるほど、
「人間」の生きている「今」の大切さを思うこの頃です。
また、考えるきっかけを戴いた貴重なコメント、
心から、ありがとうございます。
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