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2009年08月 Archive
「夕暮れの街」(上野佑爾様)
- 2009-08-19 Wed 01:43:00
- 『源氏物語』
と言っても、私の身体のためではない。
「お見舞い」だった。
何度か「日記」に書いている『源氏物語』の口語訳をされた
上野榮子様のご主人・佑爾様の所へ、だった。

数日前に、数学者のご息子・健爾様からのメールで、お父様が「腹部動脈瘤」で入院。
手術が必要との、連絡が来ていた。
佑爾様は、93歳。手術に耐えられるのだろうか。
それが心配だった。

その後もう一度連絡があり、カテーテルを使った手術が無事成功し、身体への負担も少なく、どうやら以前の生活に戻れそうとのこと。 現在は、HCU(High Care Unit・高度治療室)に入院中で、本格的なリハビリも開始されるとのことだった。
自分の父が亡くなる時に入っていたのが、ICU(Intensive Care Unit・集中治療室)だったこともあり、何だか HCU という「言葉」に少し緊張した。

秋葉原の駅から、少し歩いた所にある病院へ行く前に、お見舞いの「花」を買った。
「りんどう」の紫がとても綺麗だったが、明るい気分のものがいいと思い、
小さなアレンジメントを作ってもらった。

HCU の入口は、厳めしく、入る前に手の消毒をしなければなかった。
教えられた一角へ行くと、そこには、空いたベッドがあるだけ。佑爾様の姿が見えない。


天井からは、緊急用とも思われる管が下がっている。


脇のテーブルの上を見ると『死活小事典』という本が置いてある。
何だろう、どうしたのだろう。ふっと、不安がよぎった。

その時、若い看護師さんから、声を掛けられた。
「上野様は、今、検査に行っております。すぐに戻りますので、少し待っていて下さい」



一瞬の不安が解消し、テーブルの上の本をよく見ると、囲碁の本だった。
もう一つのテーブルには「電気剃刀」と「キャラメル」が置いてあり、
自分自身の「不安」が、可笑しくなってしまった。
しかも「電気剃刀」と「キャラメル」の並びが、何だかとてもいとおしく思えた。

佑爾様は、お元気で、相変わらずの安心感を与えて下さる話し振り。
こんなに、人間を「ほっと」させて下さる方に、お会いしたことがない。
榮子様の「言葉」を借りると「仏様」のような方だ。
要職に付かれていたにも関わらず、決して威張らず、権威とは全く無縁の方だ。
「もっと『欲』があれば、もっと地位も高くなれた」のに、とも。
本当はちっともそんな事を望んではいない榮子様が、
自宅での会食の時に、お茶目な笑顔で言われたことも思い出した。
その榮子様の「無邪気な」笑顔も、佑爾様あってこその笑顔だと思う。
佑爾様の「人柄」が傍らにあってはじめて、
榮子様の『源氏物語』の仕事も完成する事が出来たのだろうという事を、
もう一度、身体中で実感することが出来た。
あまり長く話していると、お疲れになると思い、お暇することに。
買って来た「花」は、HCU へは置けないとのことで、お見せするだけにして、
持ち帰ることになった。
夕暮れの街へ出たら、何だか無性に「人間」に会いたくなった。
■日記周辺の「言葉の断片」(和泉)
何か、表面ではなく、
深く分かる「人間」と、
黙って並んでいたいような、
そんな「気分」でした。
でも誰にも電話も掛けず、
ひとりで帰って来ました。
その方が「人間」を、
感じられることもあるから。
★
キャラメルと電気剃刀、
いいでしょう。
礼儀正しさと、
屈託のなさが、
並んでいるみたいで。
★
本当にこれまで、
いつも「人間」に恵まれて、
生きて来たように思います。
夏の暑さの中にも、ひとすじの秋が忍び込み、
何だか、人恋しい季節ですが、
そろそろ気合を入れて新しい仕事に向かわねば、
と、思っております。
★
本当に私は、
素晴しい方たちに囲まれ、
幸せ者だと思っております。
これからその感謝の気持ちを、
若い方に渡して行ければと、
心から思い始めております。
★
佑爾様、
本当に素敵な方です。
私もなれるといいな、
という憧れでもあります。
まだまだ、
修行が足りないなぁ、と、
溜め息をつくばかりです。
★
佑爾様は、
とってもいい意味で、
真面目な方なのです。
そして92歳の今でも、
とても頭がクリアで、
深い話をして下さいます。
一緒にいるだけで、
安らぐ方って、
本当に貴重です。
榮子様は、お母様の介護で、
ずうっと佑爾様と、
離れていらっしゃったのに、
心が繋がっていたのですね。
榮子様の、今のお茶目は、
その分を取り戻そうと、
甘えていらっしゃるのかも(笑)。
★
佑爾様が置かれていた、
本、電気剃刀、キャラメル、
全く意図はないと思います。
私が見たものにも、
全く意図はありません。
ただ、私の書き方や、
写真の撮り方には、
少々お茶目がある
かも知れませんね。
★
眼が合った時、
にっこり、して下さいました。
私も何だか、
にっこり、してしまいました。
★
病院って、独特の、
硬い雰囲気がありますね。
そう言えば、
佑爾様が戻って来てから、
空気が柔らかく感じられました。
★
花の力って、
凄いですよね。
でも HCU には置けず、
今の私の部屋を、
明るくしてくれております。
★
佑爾様には、
本物の「知性」を感じます。
ブッダって、
こんな人だったのかも。
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